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lawollaの吐き出すコトノハ集め。Since→2007/04/06
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カラスが屍肉をそれと見つけるのに嗅覚は使わぬそうだ。
カラスには光が見える。
人類の五倍ともいう視力は可視域の広さによるものらしく、その「色」の差異を見分けるらしい。不確かな言い回しは単に当のカラスに取材していないからで、偉い学者がそうだというのだからそうなのだろうと疑わぬ。
営業時間外のそこはうるさいほどに無音、静謐ですらある。無機物の支配する空間において、トルソーのひとつひとつに触れて歩く彼女さえ精巧なフィギアに思えるほどだった。
「ラメット」
無言のまま、彼女は振り返る。編んで片側へ垂らしたブルネットは重く、揺れもしない。
「帰ろう」
深い色の瞳をきょとんとさせて、彼女は微かに首を傾げる。しかしそれも一瞬のことで、すぐにもとの聡明そうな無表情でトルソーから伸びるコードに視線を戻した。
「大丈夫、明日には戻ってこられるんだ」
微動だにしなくなった彼女に正解を探す。正解を探して、間違いに気付いた。ラメット、と今一度呼ばう。
「行こう。明日また帰ってこられるさ」
灯りの消えた部屋に見られるため設えたマヌカンが並ぶのが異様なのは、ある種当然なのかもしれない。訪れる場所として作られた店の、ガラスを隔てる前提にあるディスプレイコーナーの、そこを在る場所に選んだラメットの愛おしさに似ている。
明日になればそのトルソーがぼうやり発光して人目を引くだろう。
ボク達は望むならその美しいショウウィンドウを一日中見ていられる。
しかし、ラメットは覆いに隠れた姿見をチラと見遣り、それから出し放しにされた靴の化粧箱をつつく。
「わかったよ」
ボクはラメットの興味なさげな視線から零れた小物を余さず鞄に詰めた。時計を幾つかポケットへ拝借するとき、ラメットは唯一少女じみる。
 
「でもそのプラグは要らない。もし『正解』だったとしてもだよ。腰からそんなコードが伸びてちゃ、先週手に入れたジーンズがキマらないだろ」
 
咎めるような。
切望するような。
優しい狂気を孕んだ目がプラグとボクと懐中時計とをワルツして、最後は縋るようにボクで止まる。
「ラメットの隣に並ぶのにダサくなるならボクはジャンクのままでいいんだ」
「ラメット、キミがボクを直したいって言うからこんな空き巣めいたことまでやるけどボクは」
「その時計に使えるパーツがなくても」
「昨日くすねたキャパシタが型番違いでも」
「いいんだ」
 
二十四分の一秒ほど泣きそうな顔をした彼女は、だがすぐに持ち直して眼鏡を上げる。
「行こう」
ごくごく僅かに彼女が頷く。去り際に未練っぽく件のトルソーを見たけれど、それよりボクにおいてゆかれる方が嫌らしい。
彼女が側に来ると、辛うじて駆動音が拾える。ボクの鼓動に触れてポリリズム。
「行くよラメット」
はくはく、と厚く柔らかそうな唇が動く。ボクを型番で呼んだらしい。
うん、ホテルに戻ったら戦利品をさらおう。ボクに流用できる部品があるかどうか。
彼女の発音機巧はだいぶ前にイカれていて、だから彼女のために読唇術めいたものを体得した。コミュニケートに困ったことはないから良いのだけれど、そんなわけで彼女の『声』で呼ばれることがないのは少し残念である。デタラメな英数字の羅列でも、それはボクの名前に違いないのだから。
彼女がそうだと言うのならば彼女は完璧な少女ラメットであり、ボクはオンボロヒューマノイド××××なのだ。
ショウウィンドウの人形は、擬似月光のもと曖昧に屹立している。

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音感のない共感覚保持者(だった)。
Attention-Deficit Disorderという診断名は仰々しい気がするのだけれど
メチルフェニデート塩酸塩という薬名と釣り合いは取れているとも思う。
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