lawollaの吐き出すコトノハ集め。Since→2007/04/06
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お題提供:痘瘡 様
長いので畳みます
長いので畳みます
=泣き主の責任転嫁=
サボテンが少しシャキンとしていたように思う。
夏の湿気でハリをなくしていた緑のサボテンは、落ち着いた陽気に体力を回復させたみたい。
名の由来となったサッカーチームは伸び悩んでいるけれどテラコッタの中でブカレンはガンバっていた。
そんなとき、その女の子は急に忘れたことにすると言いだした。
「分かった、全部、忘れてあげるよ。それでいいでしょ?」
アヤが突然なのは別に最近はじまったことでもないから今更僕はびっくりもしなかったけど、少しだけ困った。
それでいいでしょ、なんて僕にとってはなんの話だか分からないから、安易にうん、そうだねなんて言えないと思う。だけどアヤは適当にものをいう子じゃないのも知ってるから簡単に否定や疑問を挿めないことだって知ってる。
「だから帰ってもいいし、もう少し居てもいいし、もっと居てもいいから。」
「ん」
金魚が跳ねたような水の音がした。僕は手元のテトリスが佳境で目をそらせなかったけれど。
結局夏休みが明けても学校には来なかったアヤが大きな椅子の中に丸まって沈んでいるのだろう。鼻を鳴らす音と、軋む音がした。あ、間違えた。あ、あ、積んだ。
手の中の小さな液晶でブロックが灰色く固まって崩れた。あーあ。
「で、何を?」
僕が座る木箱は美術室や理科室の四角い椅子に似ていて座り心地は良くない。それでもじっと動かないでいると体の方がそれに慣れてしまって変な感じがする。空気の循環がないこの部屋で、その場しのぎでも清涼感が欲しくて僕は小さな冷蔵庫を開けてみた。
車とかの中に置くタイプのそのコンパクトな電化製品はイーゼルの向こう側で開けにくい。さらに扉の目の前にパステルの大きなケースが置かれていたことに嫌な予感。
案の定、中には僕が前回入れたまんまの形でソーダが入っていた。
ひどいなぁ、ちゃんと整理しなよ、っていうか使わないならこれ僕に頂戴ってば、ねぇ。ぶつぶつと呟く僕はきっとアヤを娘か妹と勘違いしてる。同級生なのに。
アヤも僕を保護者か何かだと思っているんじゃなかろうか。それは・・・・・・困る。
「ね、ちゃんと返事しなよ」
ため息を混ぜて諭すと、アヤはいつもにやにや謝るんだ。その愚痴を学校に持って行くとコウが大きな声で笑って、僕はそれでいつも大体どうでもよくなっちゃうんだけど。
今日に限っては、アヤが起き上がってこなかった。
「ねぇ、アヤったら」
咎める口調に、僕も大概勘違い野郎なんだなぁと苦笑した。
困って笑えばアヤは逆らわない。基本はイイ子なんだ。やっぱり鴻池のお嬢様として礼儀正しく育てられていて、それは彼女がどんなに家族と仲が悪くても変わらない事実だから。
・・・・・・あれ、遅いね。
何を意地張っているんだか分からないけれど、これは些か面倒くさいかもしれない。
足の踏み場も手の置き場もないくらい画材や作品が散乱した小部屋の真ん中でアルマジロ化しているアヤ。
どうしたのかな、今日は変に粘り強い気がする。
「アヤってば」
「返事はしないでおこう」
「え?」
「だって全然覚えがないもん。ってことにしよう」
どうやら今日の僕はアヤの記憶外(という設定)みたいだ。
「ぜぇんぶ忘れてあげるから、それで、チャラにしよう」
「は?」
木炭入れ越しに、窓際のサボテンが見えた。濃い金色の針がつやつやと光っている。言葉も権力も、棘がこれくらい美しく綺麗で愛に飢えていたら綺麗な花が咲くのだろうか。
やっぱり元気になってるなぁ、ガンバ。そういうことをぼんやりと思った。
「我儘じゃなくて、忘れてただけだから、」
「・・・・・・あぁ、うん」
僕は霧吹きでガンバの飴色の棘を湿らせた。
金魚の跳ねる音に、ウラワにも餌あげなきゃなぁと思う。このアトリエと呼ばれる倉庫の住人を平等に扱うために、ジュビロの世話もあとでしてやろうとも思った。
それから、アトリエの主が一番の問題なんだ。
「僕は僕の意志でいるよ、大丈夫」
詰めていた息を吐く音と、椅子が軋む音。
丸まっていたアヤが、さらに膝を強く抱いていた。
その首筋に霧吹きのミストを吹き付けたら、間抜けな声をあげてアヤはのけ反った。
のけ反った拍子に椅子から転がり落ちて、涙目をそのせいにして笑う。
アヤの斜め後ろで何かが光った。
ガンバの棘に雫が伝った反射だった。
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