lawollaの吐き出すコトノハ集め。Since→2007/04/06
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一部グロテスクな表現を含みます
嘔吐、自傷等の描写がありますので、
苦手な方はお読みになりませぬよう。
嘔吐、自傷等の描写がありますので、
苦手な方はお読みになりませぬよう。
=カカオの砂を瞼に=
ゆめをみた。
それはいつもの妄想に似て、あたしはその人の喉元に喰らいつく。
犬歯が皮膚を破る音がして、目に入った血は不愉快だ。
高い所に立つとき、自分がそこから飛び降りた妄想をするんだと、可愛い妹は言っていた。
誰かと話すとき、イオくんはそのひとに死ぬまで殴られているんだって。
あほらし。
非生産的で青臭い、ついでに没個性な感じのだっせぇ感覚。さすがはあたしの妹、愛すべき馬鹿。
学校の屋上で、ランドマークの展望ロッジで、市営の天文台で、あたしは誰かを突き落とした妄想をする。
血に塗れた髪の毛の一本まで見える。
発話するとき、受話するとき。あたしはそのひとの生命活動を止めている。
犬歯が皮膚を破る音がして、目に入った血は不愉快だ。
「じゃあ今、殺されてますか」
「そおだね」
「どんなふうに」
「イオくんの頭ン中はどうなってるのかな、って」
「割ったんですか」
「んーん。砕けた」
「へぇ」
団内に住んでいるというイオくんを駅まで呼び出して、デートした。
電車は一本だけれど、県境を越えるから遠出だとイオくんは呟いた。
あたしはあたしでイオくんに男を見つけないように必死だったし、お互いに言葉は少なかった。
ネットで妹のイオくんは、だけどやっぱり肉体的には男性だったから、あたしはその声に少しパパを思い出した。
ひょろくて色白のイオくんはあたしの加虐心をくすぐる。それだけが、あたしを満足させた。
下らない話をいくつかして、チョコクロワッサンを二人で食べた。
「これも吐く?」
「どうでしょう」
「どんなふうに」
「見たいですか」
「まさか」
「でしょうね」
わらったあと、イオくんはトイレに入った。
あたしは剥がれたチョコの欠片をつまんで、かさぶたみたいだなぁと思った。
ぱくりと食べてしまった。
根元に自爪が見え始めたジェルネイルを弄りながらイオくんを待つ。
すぐに妹は帰ってきた。
イオくんの手にいわゆる吐きダコを見つけて、あたしは写メらせてもらった。
ぷっくりと紅いふたつの盛り上がった皮膚は、この上なく可愛かった。
カラオケボックスを出るとすっかり暗くなっていた。
「時間大丈夫?」
「だめですね、でもここのところ躁なんで」
どうせ飲んだくれてますから何にも分かっちゃいません、とイオくんは笑った。
あぁ。
妹の母の娘なら幾分かマシだったろうか。どうでもいいけど。
「リィ兄こそ、暗い道を少女一人でいいんですか」
「良くないね、でも襲われたら退屈しないですむかも」
どうせ処女じゃないしね、とあたしは笑った。イオくんは少し困った顔をした。
「じゃね、あとでブログ更新しとくわ」
「見に行きます。じゃ」
あたしの脳内で、イオくんの首があらぬほうへ曲がる。
多分イオくんの脳内で、あたしは両手に血を付けている。
「・・・・・・ねぇ。あいしてるぜ」
「笑えません」
駅の階段を下りて、妹は見えなくなった。
その夜は、久し振りに早く寝た。そしてこんな夢を見る。
目の前に人影が見えたから、あたしはいつものように喉笛に噛みついた。
硬化した爪で押さえつけて、組織を食い破る音を聞く。
血に混じって、濃く甘い味がした。それはチョコレートによく似ていた。
よく見ると男はイオくんだった。
喉から口からどろどろのチョコを垂らして、イオくんはあたしを押し退ける。
拍子に飛沫が目に入った。それは非道く不愉快であった。
「イオくん、イオくん」
あたしはイオくんを呼んだ。
「リィ兄」
「ねぇ、庵」
もう一度呼んだ。
「リヒト、リヒト」
最後に本名を呼んだ。
人影は崩れた。頭蓋の中には何もなかった。
あたしは泣いた。
涙が返り血を流して、甘いとしょっぱいの混じった体液が口に入った。
瞬間あたしが決壊した。
今までに切ったり引っ掻いたりした体中の傷がぱっくり開いて、当然だけどあたしは死ぬ。
イオくんだった肉塊があたしの本名を呼んだ。
恥ずかしい程の血の中で、あたしはただうっそりと笑う。
だって出血は傷からだった。
ゆめをみていた。
あたしは男の子だったら愛されずに済んだかも知れないし、あのこは女の子だったら愛してもらえたかも知れない。
あのこがあたしの妹だったなら、あたしがあのこの兄だったなら。
ゆめからさめて、あたしはイオくんに電話をした。そしてあのこが出る前に切った。
嗚呼、メールは確かに妹であった。
二の腕を引っ掻いた。
赤く腫れた皮膚、決壊しなかった。 イオくんも生きているらしかった。
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