谷川俊太郎を読むことが好きなのに
谷川俊太郎を読む女であることに耐えられなくて
私はその清かな詩集を後ろ手に隠す
冷めかけた紅茶と
縮れるようなレコードノイズと共にあってほしいそれを
私はハイレゾ音源のダウンロード中に読む
斜め後ろの男子高校生が持つ傘も濡れていて
私のストッキングを水滴が伝う
目尻のファンデーションがよれている気がする
これはポエティックでもリリカルでもなくて
音楽データのダウンロードは既に終わっている
私はドナルド・ダックの嘴を噤ませたまま
データのファイルサイズに辟易する
秋雨前線は明日も神奈川あたりに居座るだろう
男子高校生が私に会釈した